学歴フィルターとは、企業が採用時に特定の大学出身者を優先する手法を指します。特に日本の大手企業では、特定の大学からの採用に偏りがあると指摘されており、これが「学歴フィルター」として広く認識されています。この記事では、実際のデータを基に学歴フィルターの影響を分析し、企業の採用実態とその未来について考察します。
総合商社における学歴フィルターの実態
5大総合商社(三菱商事、三井物産、伊藤忠商事、住友商事、丸紅)は、依然として学歴フィルターの影響が強く見られる企業群です。2022年の採用大学ランキングを見ると、上位大学の占有率が非常に高いことがわかります。
なぜ総合商社でこれほど学歴フィルターが強く作用するのでしょうか?一つの理由として、企業は採用プロセスの効率化を図るために、過去の実績やネットワークから信頼できる大学を重視する傾向があります。また、これらの大学の学生は既に厳しい選抜を経ており、一定のスキルと学力が保証されていると見なされるためです。
業界別の学歴フィルターの実態
金融業界やコンサルティング業界では、学歴フィルターが特に強く、旧帝大や早慶出身者が大半を占める傾向があります。企業は、特定の大学のネットワークや教育背景に依存することで、即戦力となる人材を短期間で見極めることができるためです。
一方で、IT業界やスタートアップ企業では、スキルベースの採用が進んでおり、学歴に依存しない傾向が強まっています。特にプログラミングスキルやデータサイエンスなどの実務スキルが重視され、学歴ではなくポートフォリオやプロジェクトでの実績が評価されます。
例えば、GoogleやFacebookのようなグローバルIT企業では、学歴フィルターがほとんど存在せず、スキルテストや実務経験を重視した採用が行われています。これにより、実務スキルがあれば十分に採用される可能性があります。
学歴フィルターのリスクと批判
学歴フィルターの存在は効率的な人材選定を可能にする一方で、次のような問題点を引き起こします。
多様性の欠如
特定の大学出身者に偏る採用は、組織内の多様性を欠如させるリスクを伴います。多様なバックグラウンドを持つ人材が少なくなることで、新たな視点や革新的なアイデアが生まれにくくなる可能性があります。
スキルの見落とし
学歴だけで候補者を絞り込むと、実際のスキルや経験を持つ優秀な人材を見逃すリスクもあります。特に技術職や専門職では、学歴よりも実務スキルが重要であり、学歴フィルターによってこうした人材を排除することは企業にとって不利益になる可能性があります。
スキルベース採用の普及と未来
近年、スキルベースの採用が多くの業界で浸透しつつあります。これにより、学歴フィルターの影響は次第に弱まっていくと予想されます。
ハーバードビジネススクール(HBS)は、2014年から、四年制大学の学位を採用条件とすることが、中間スキル職(ミドルスキル職)に与える影響を調査しています。この調査の中で、学歴を採用の基準とする傾向が変わりつつあることが明らかになりました。
主な結果
- 分析期間: 2017年から2020年にかけて、5,100万件以上の求人広告を分析。
- 学士リセット(Degree Reset): 四大卒を必須条件とする求人が大幅に減少。この現象を「学士リセット」と名付けられています。
- 分野別の変化:
- 中間スキル職(ミドルスキル職)では、2017年から2019年の間に、四大卒を条件とする求人が46%減少。
- ハイスキル職では、同期間に31%減少。
- 財務、経営管理、エンジニアリング、医療分野で特に大きな減少が見られました。
職種ごとの違い
- ITプロジェクトマネージャーのような職種では、四大卒を求める割合はほぼ変わらず(2017年の92%から2020年の91%)。
- プログラマー職では、四大卒を条件とする割合が83%から79%に減少。
企業は学歴だけでなく、実務経験やスキルを重視する傾向に移行しています。特にコロナ以前から始まったこの流れは、スキルベースの採用を推進し、学歴に依存しない人材登用が増加しています。
簡単に言えば、企業は四大卒を条件としなくても、スキルがあれば採用するようになり、特に中間スキル職でこの変化が顕著に表れています。この流れは日本へも影響する可能性が高いと推察します。
学歴フィルターの未来とキャリア戦略
学歴フィルターは依然として多くの大企業で存在していますが、スキルベースの採用が広がることで、その影響は次第に弱まりつつあります。特にIT業界やスタートアップでは、学歴に頼らないキャリア形成が進んでおり、これからの時代では学歴以外のスキルや経験が重視される傾向が強まっていくでしょう。
確かに学歴は一つの武器です。長年勉学に取り組んできた成果ともいえます。ただ、仕事において必要なのは「収益に繋がるスキル」です。自身の武器は何なのかを一度見つめ直して、強みを磨くことが大切です。
コメント